抵抗を減らす方法

エンジンをパワーアップするのに燃焼の次の要素として挙げられるのが、抵抗低減(フリクションの低減)です。どんなに排気量を上げても、圧縮比を上げても擦れる部分がザラザラだったり、回転する部分がきつかったりするとパワーロスになるばかりか摩擦熱が発生して故障するのは想像に易いと思います。
ここでは抵抗を減らす方法を幾つか紹介すると共に、エンジンを管理する為の必要最小限の要素を挙げてみます。

<カムジャーナルの真円度管理>

ヨシムラのヘッドキットではカムシャフトをベアリング支持する事でカムシャフトの回転抵抗を低減しています。
更に!!(これは大事ですよ)そのベアリングを保持する部分の真円度を確保する為に、カムキャリアとヘッドを締め付けた状態で、エンジンの横方向から一度に加工する「同軸加工」を採用しました。
なんか自慢しているみたいですが(していますね....)現代の最新エンジンではごく普通のことなのです。だから、「ごく自然の事をしてみました。」と言いたかったのです。

<多部品の摺動部(擦れて動く部分)の精度管理>

どんなものでもそうですが長く使い込むとどこかが壊れてきます。
エンジンの場合は「摺動部」、つまり擦れて動く部分(他も重要ですが)に特に注意が必要です。それを改善する為に「オーバーホール」をするわけですが、エンジンのどの部分をチェックすべきかを幾つか挙げてみます。

♦バルブの軸端♦

XR / APE / NSFのエンジン及び、モンキー系のエンジンではタペットがスクリュタイプになっています。スクリュタイプのタペットは整備が簡単である反面、球状の先端を持つタペットスクリュが直接バルブ軸端を叩く為、バルブ軸端に打ち付け跡がついてしまいます。リフトの高いカムを使用した場合はかなり早い段階でバルブ軸端が膨らんだり、タペットスクリュ先端が摩耗しタペットクリアランスが変化します。バルブ軸端が膨らむとオーバーホール時にバルブが抜けにくく、最悪削らないと抜けない状況になってきます。こうなるとバルブは交換が必要です。
また、エンジンを分解しなくてもタペットクリアランスが安定しない場合は同じような事が起きていると考えるべきです。バルブはエンジン稼働時には回っているので、その位置によって僅かにタペットクリアランスが変化していると思われます。
ヨシムラのカムシャフトはタペットがバルブ軸端を攻撃しにくい設計になっています。また、XR / APE / NSF用・MONKEY用のヘッドではタペットスクリュを廃止し、現代エンジンでは常識となっているスリッパータイプを採用しました。これはロッカーアームが「点」ではなく「線」でタペットシムに接触し、タペットシムはバルブ軸端を「面」で押すというものです。ご想像の通りタペットクリアランスの調整はわざわざカムキャリアを外す必要がありますが一度調整してしまえば、まずクリアランス変化が起りにくいので安心してお使いいただけます。

♦その他のチェック項目♦

エンジンを分解する際には以下のような項目にも注意してください。

  • 抜いたオイルに異物は無いか。また、金属粉が無いか。
  • バルブコッターやバルブスプリングリテーナーの摩擦面にかじりは無いか。
  • バルブステムにかじりは無いか。
  • クランクの触れチェック
  • クランクシャフトのジェネレーター取付部の摩耗チェック。
  • カムシャフトの摩耗
  • ロッカーアームの摩耗
  • ピストン上面に打痕は無いか。また、全体をみてクラックやキズが無いか。
  • シリンダーに深い縦キズは無いか。
  • クランク、カムシャフト、ギア等のベアリングがスムーズに動くか。
  • ギアの歯面(擦れる部分)に欠けはないか。

等です。

エンジンが壊れて修理する場合やオーバーホールをする場合にヨシムラでよく口にされる例えで「エンジンを組立てられるまでに1年、分解出来るようになるのに一生」と言われています。
ちょっと極端ですが分解作業がいかに難しいかを伝える言葉です。分解する際はどんなにしつこく観察しても損は無いですし、そこにこそ改良のヒントやトラブルの原因が潜むという事です

<ジェネレーターローターの軽量化など>

さて「パワーアップ」の為のチューニングに話しを戻しましょう。抵抗を減らす為の相乗的な方法の一つに「動く部分の軽量化」が有ります。エンジンの中で特にパワーアップに関わる軽量化といえば「運動系の軽量化」です。
「運動系」とはピストン、コンロッド、クランクシャフト、つまり「爆発力を回転力に変換する部分」を指します。ではこの3点をひたすら強度の許す限り軽量化すれば良いかと聞かれますと「YES」とも「NO」とも言えます。実は運動系の軽量化には強度の他に気を付けるべき要素があり、それに気を付けて軽量化すれば「パワーアップ」は可能です。気を付けるべき要素とは「回転慣性力」「バランス率」です。これらは単気筒エンジンにおいては特に重要な要素になります。

♦回転慣性率♦

多気筒エンジンでは他の気筒の爆発を利用して圧縮行程を行えますが、単気筒では自身の爆発力を「回転慣性力」として「運動系」に溜め込む必要があります。この「回転慣性力」は「回転モーメント」とも呼ばれ、とりわけ「運動系部品」の中でも「クランクシャフトの重量と径の大きさ&回転数」が深く関わります。

♦バランス率♦

バランス率とは「運動系がクランクシャフト中心を軸としてどの位バランスが崩れているか」を示す要素です。このバランス率を変化させる事でエンジンの特性をある程度決める事が出来ます。
また、「運動系」は回転運動をしているクランクの他に往復運動をしているピストン、そしてそれらを繋ぐコネクティングロッドで構成されています。特に往復運動については単気筒の恒常的な問題である「振動」の原因となりますが、この「振動」もバランス率である程度はコントロールする事が出来ます。

♦ヨシムラのXR/APE/NSF用クランクシャフトは、♦

1. パワーアップに対応した強度を確保。
2. 数多くの実験で導かれた最適な「回転慣性力」、「バランス率」で仕上がっています。
とはいえライバルに差をつけるためにはチューニングをしたいところです。やるとすれば「バランス率」を変化させないで「クランクを軽量化」するのが良いでしょう。この場合以下のような変化が考えられます。

良い例(適切な軽量化)
■ピックアップが良くなる。 ⇒ 回転上昇する際に回転させる物体の重量が軽い為。
■高回転領域の出力が向上する。 ⇒ 圧縮行程のための回転慣性力が十分な高回転領域では運動系重量は軽い方がエネルギー損失が少ない為。
■コーナー倒し込みや切り返しが軽くなる。 ⇒ ジャイロ効果が軽減される為。これは車体の中心線から離れているところを軽量化する程、効果があります。

悪い例(軽量化をしすぎると)
■低回転でアイドリングしなくなる。 ⇒ 「回転慣性力」が足りず、低回転で圧縮行程がスムーズに出来なくなる為。
■強度が足りなくなる。 ⇒ 組立クランクなので圧入しろがある程度必要です。
■コーナーで車体は軽いが、立ち上がりでパワーが食われる。 ⇒ 車体がバンク状態から起きる時にタイヤ外周が大きくなる為に起こる現象ですが「運動系」に十分な「回転慣性力」があれば、エンジン回転を維持出来る為前に進む事が出来ます。

以上から、もし「運動系の軽量化」を行うのであれば手軽に出来る「ジェネレーターローターの軽量化」をお勧めします。但し、ジェネレーターをアフターマーケットの物に変更する場合は注意が必要です。
何故なら、アフターマーケットのジェネレーターローターの殆どは「イグナイター」の変更も必要だからです。もし、イグナイターに「過激な点火タイミング」がセッティングされているとエンジンが壊れてしまいます。純正のジェネレーターローターを旋盤加工等で円周を均一に軽量化するのが最もお勧めです。